ビタミンの話(10)~ω-3多価不飽和脂肪酸(オメガ3PUFA)と糖尿病

ω-3多価不飽和脂肪酸(以下;オメガ3PUFA)という名前を耳にされた方は、それなりにおられると思うが、これは、名のとおり、“脂肪”の1種である。“脂肪”というと肥満とか生活習慣病の原因だとか、どちらかというと悪者にされがちである。しかし、“脂肪”には、多種多様な脂肪があり、それらを摂りすぎることによる健康への良くない影響を及ぼす“脂肪”も実際にはある。一方で、オメガ3PUFAにおいては、健康維持増進あるいは疾病予防、さらには疾病の改善に役立つデータが積み重ねられつつある。なかでもEPA(イコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)、ALA(α-リノレン酸)の機能に関する研究が盛んである。前に本稿で紹介をさせていただいたが、EPAは、ご存知のように、すでに誘導体(EPAエチルエステル)を配合した医薬品が、後発品(ジェネリク医薬品)も含めて消費者が容易に安価で購入できる薬のひとつとして市場にあり、高脂血症薬、抗血栓薬、抗血小板薬として処方されている。また、食品の世界においては、“中性脂肪を低下させる”といった機能性表示の清涼飲料水(1本あたりEPA 600mgおよびDHA 260mg含有)等が特定保健用食品として販売されている。さらに、上記の機能性表示はできないが、内容的には特定保健用食品と変わらない魚油(EPA,DHAが含有されている)を配合した健康食品が市場に溢れている。さらに、シソ油(ALAを含有)を配合した健康食品も市場にかなりでている。

我が国でも、国際的に評価が高い高コレステロール血症患者を対象にEPA医薬品による心血管発症に対する1次予防および2次予防効果を調査する大規模疫学調査が、1996-2004年にかけて実施されたJELIS研究(Japan EPA Lipid Intervention Study)の報告がある。

本研究では、1次予防で、高中性脂肪、低HDLコレステロールの改善で著効を示し、2次予防での有効性は高く、特に心筋梗塞既応歴と冠動脈介入施術例で著効を示すことが報告されている、ことも前に紹介をさせていただいた。今回は、国民病としても疾病発症率および予備軍の減少が大きな目標となっている糖尿病における肯定的な疫学調査結果が国立国際医療センターの研究員グループから発表された。本調査は、5年間(平成14-18年)の魚摂取(19品目の食品)と糖尿病発症を調査した一次予防に関する疫学調査で、調査対象者の年代は、40〜69歳の男女で、岩手・秋田・新潟・茨城・東京・長野・大阪・高知・長崎・沖縄の保健所管内の住民である。その結果、EPA・DHAが豊富で脂の多い小型・中型の青魚(イワシ、サンマ、サバ等)の摂取量の多い男性中年の健康人では、糖尿病発症率が低いことがわかった。一方で、今回の調査では、女性においては、男性のような関係はみられなかった。この男女の違いによる結果の違いは不明である。オメガ3PUFAの健康維持増進あるいは疾病予防、さらには疾病の改善における役割に関するさらなる検討を期待したい。

末木一夫

(薬学修士、日本ビタミン学会評議委員およびトピックス担当委員。国際栄養食品協会 専務理事および科学委員会委員長、元健康日本21推進フォーラム事務局長、元お茶の水女子大・明治大非常勤講師)