〜薬剤師 後藤 君代〜

今回は一般的に家庭でよく使われているスプレー剤等についてお話ししたいと思います。スプレー剤には色々なものがあり、扱い方、保管の仕方によっては大きな事故につながることもあります。過去の事例を上げていますので、事故防止の参考にしてください。

1. ピレスロイド系殺虫剤スプレー(家庭用)

ハエ・蚊・ゴキブリなどの駆除に用いられるエアゾル式の家庭用殺虫剤。有効成分はピレスロイド系(フタルスリン・アレスリン・レスメトリン)で、噴射剤(LPG・ジメチルエーテル)と石油系溶剤が含まれています。

《症状・応急処置》
 大量でない限り重篤な中毒は起こりにくいです。ただし、量にかかわらず気管に誤嚥した場合は石油系溶剤で化学性肺炎を起こす可能性があります。
 大量摂取では嘔気・嘔吐・下痢・口唇、舌のしびれ感・めまい・顔面蒼白・痙攣などが出ます。吸入では、くしゃみ・鼻炎・咳・悪心・頭痛・耳鳴り・昏睡等です。
 過敏症の人では皮膚炎やアナフィラキシーショック(じんましんや皮膚が赤くなるなどの皮膚症状や呼吸困難・めまい・意識障害さらに血圧低下等によるショック症状を引き起こし、生命の危機に陥ることもある)を起こすこともあります。
 応急処置は家庭では口をゆすぐ、接触した皮膚を石鹸で良く洗うことです。咳きこんだり呼吸が苦しい場合や嘔吐した場合は受診してください。受診の際は殺虫剤を持参してください。

2. 防水スプレー

衣料や皮製品等の表面にスプレーすることで、撥水加工が出来るもので、スキーウエアや靴・バッグ等の撥水に使用されます。
 防水剤は撥水成分のフッソ樹脂・シリコン樹脂を石油系溶剤ヤメチルエチルケトン・酢酸エチル・アルコールなどに溶解したものです。

《症状・応急処置》
 中毒はスプレー剤を200〜500ml使用した場合に起こりやすくなっています。主な症状は咳・呼吸困難・嘔気・嘔吐・発熱です。症状は使用後に深呼吸が出来ず、息苦しくなり息を深くすると咳がとまらなくなり、さらに息苦しくなります。ほとんどが使用後、1時間以内に症状が出ます。
 家庭では新鮮な空気を吸わせ、眼は流水で15分以上洗ってください。皮膚は石鹸で洗ってください。咳や息苦しさなど何らかの症状がある場合は受診してください。目や皮膚は洗浄後、まだ症状が見られるようなら受診してください。受診の際は使用した防水スプレーを持参してください。

3. 除菌・消臭スプレー

室内空間またはまな板や靴などにスプレーして菌の繁殖を抑えたり、嫌なにおいを消すために使用するもので、噴射剤の入ったエアゾルタイプと入っていないスプレータイプがあります。
 主な成分はエタノールでほかに消臭成分(植物抽出液・界面活性剤など)や除菌成分(オルトフェニルフェノールなど)が微量含まれています。エアゾールタイプには液化石油ガス(LPG)やジメチルエーテル(DME)二酸化炭素が用いられています。

《症状・応急処置》
 少量では急性中毒症状を起こすことはほとんどありません。大量の場合はエタノールによる嘔気・嘔吐・意識障害、LPGや二酸化炭素による酸素欠乏があります。
 家庭では飲み込んだ場合は、水分(お茶・ミルク・ジュース等)を摂らせてください。吸い込んだ場合は新鮮な空気を吸わせてください。眼は流水で洗浄し、皮膚は石鹸で洗ってください。大量に飲み込んだりした場合は受診してください。受診の際は除菌・消臭スプレーを持参してください。

4. スプレー缶による事故

塗料・殺虫剤・ヘアスプレー・消臭剤など、スプレー缶製品(エアゾール製品)は日常生活のあらゆるところで使用されていますが、使い方や保管の仕方によっては、思わぬ事故につながることもあります。実際に以下のような事故が起きています。

事例1
 車の中に木工塗料のスプレー缶2本を置いていたところ、1本が破裂した。フロントガラスが破損し、塗料が室内に飛散した。
⇒スプレー缶の内容物の重量が大きいものは高温環境下で破裂しやすい。

事例2
 石油ファンヒーターの前に置いていたスプレー缶が破裂し、窓ガラスが割れ、天井に穴があき、ふとんが焦げた。
⇒スプレー缶がファンヒーターの熱で加熱され内圧が上昇し破裂。噴き出た可燃性ガスにファンヒーターの火が引火した。

事例3
 防水スプレー缶の中のガスを抜いているときに近くの火に引火し火柱により、顔面をやけどした。
⇒スプレー缶に内容物が残った状態で、缶に穴を開けてガス抜きをすると、周囲の火種により引火・爆発する。

事例4
 制汗消臭剤を手の甲に受け、皮膚が紫色になり、受診したところ、凍傷と言われた。
⇒人体に噴射して使用するコールドスプレー等は使い方によって(表示よりも近い距離から噴射等)は凍傷の危険性が高くなる。

《使用・保管・廃棄時の注意》
 使用時は表示よりも近い距離から噴射したり、横に倒しての噴射などをしたところ、噴射剤が液体のまま噴射されて凍傷になる危険性があります。適切な使用方法で使用してください。
 スプレー缶の主な内容物は目的成分とそれを溶かすための溶剤そして噴射剤(LPガス・ジメチルエーテル)などです。噴射剤の2種類は可燃性です。
 スプレー噴射直後は火気を近づけないようにしてください。
 直射日光の当たる場所や高温の場所にスプレー缶を置くと破裂や爆発の危険性があります。自動車内や直射日光のあたる場所、加熱器の近くには保管しないようにしてください。
 廃棄時は噴射剤も含め、内容物をすべて使い切って処分してください。内容物が残った状態で缶に穴を開けてガス抜きをすると周囲の火種により引火・爆発します。
 廃棄の際は、各自治体に確認してください。


〈参考〉日本中毒情報センター