高齢者が罹患する病気の内で骨粗しょう症は、生活の質(QOL)の悪化と早期の死を招く。

骨粗しょう症を予防するためには、当然のことながら、骨を強くしておくことが重要になる。そのためには、適切な栄養素の摂取・運動・休養が大切である。正常な骨の状態を判断するには、骨量と骨密度を高くすることで骨強度が高まるという考え方が主流であり、そのためには適切なカルシウムとビタミンDを摂取しましょうという健康栄養政策がある。しかし、最近骨粗しょう症と診断されない骨密度の方で骨折が生じている症例が良く見受けられるようになった。この原因を検討していく内で、“骨質”が重要な因子であることがわかってきた。すなわち、建造物で例えると良質な建築材料と量その設計、特に骨組みの良しあしが長持ちする建造物をつくる。骨も同様のことになる。骨の量と質が重要である。

さて、骨の組成をみると、ご存知のようにコラーゲンとカルシウムが1:1(体積比)で、コラーゲンによる架橋が強固なものが良い骨となる。一方、以前にも紹介させていただいたが、アミノ酸であるメチオニンの中間代謝産物であるホモシステインの血中濃度が高くなると循環器系、認知能等に悪影響を及ぼすことがわかってきた。と同時に、骨質因子であるコラーゲンの架橋形成にも悪影響を及ぼすことがわかってきた。すなわち、ホモシステインはコラーゲンの分子間をつなぎとめる構造体である2種類の架橋の内で善玉架橋の形成に関与するリジルオキシダーセの作用を遺伝子、タンパク質レベルの多段階で阻害する。さらに酸化ストレスの増大をもたらし終末糖化産物架橋の増加をもたらすことで骨質の劣化がおこる。

ここまでの状況が明らかになってくると、いよいよビタミンBトリオの登場である。すなわち、ホモシステインの血中濃度を正常化するビタミンとしてビタミンB6・B12・葉酸といったB群ビタミンがある。これらのビタミンBに加えてビタミンB2は、メチオニン→ホモシステイン代謝の代謝回転のなかで、それぞれ補酵素としてホモシステインが正常に代謝されるための役割を果たしている。実際に、骨質改善策としてB群ビタミン摂取が良い結果を得たという研究調査結果が米国、オランダ、日本(長野コホート研究)等で報告されている。さらに、血中ホモシステインの増加因子としてメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素の遺伝子多型(TT型)が、あり、日本人は5人にひとりが遺伝子多型(TT型)であり、欧米人の2倍である。単純に欧米人より2倍骨粗しょう症を発症するリスクがあるということになる。安価で安全なビタミンB群の適切な摂取によって骨質を改善し、骨量を維持しながら、運動・休養と共に正常な骨の状態が良質なQOLに大切であろう。

2007年に日本整形外科学会によって提唱された概念である運動器症候群(ロコモティブ・シンドローム)の発症予防には、お勧めではないだろうか。


末木一夫

(薬学修士、日本ビタミン学会評議委員およびトピックス担当委員。国際栄養食品協会 専務理事および科学委員会委員長、元健康日本21推進フォーラム事務局長、元お茶の水女子大・明治大非常勤講師)