「魚は健康維持増進に役立つ食品である」、「魚油配合サプリメントは健康維持増進に役立つ栄養補助食品である」。このような表現があちこちで見られる。日本でも人気があるが、欧米での関心の高まりはすごいものがある。米国では、魚油配合サプリメントを摂取する成人の比率が2006年(8%)から2011年(17%)にかけて、5年間で9%も増加した。サプリメント以外にも、飲料、他の食品、美容ケア製品、ペットフード等に魚油を配合した製品が、市場に出回り、世界市場は約1兆円に届くとも言われている。

一方、実際の有用性についてはどうであるのか。魚油に含まれるω-3多価不飽和脂肪酸(以降;オメガ3PUFA)、なかでもEPA、DHAの機能に関する研究が盛んである。EPAは、ご存知のように、すでに誘導体(EPAエチルエステル)を配合した医薬品として市場にあり、高脂血症薬、抗血栓薬、抗血小板薬として処方されている。また、“中性脂肪を低下させる”といった機能性表示の清涼飲料水(1本あたりEPA 600mgおよびDHA 260mg含有)等が特定保健用食品として販売されている。

事の発端は、1971年に発表されたグリーンランド(デンマーク領)に居住するイヌイット族とデンマーク人を比較した疫学調査である。すなわち、イヌイット族に急性心筋梗塞が少なく、出血傾向がみられた。その要因として、彼らはアザラシやオットセイ等の海獣を主食とする食生活に注目が集まり、血清コレステロール中のEPA濃度がイヌイット族では15.4%、デンマーク人では0%であった。また、血小板凝集作用の強いアラキドン酸濃度がイヌイット族では0%、デンマーク人では4.4%であった。以降、心臓血管系疾病の一次予防に関する調査が始まり多くの有益な結果が報告され、現在の上記のような医薬品および機能性食品の開発・販売および魚を推奨する食事ガイドラインが世界的に発信されるようになったのである。我が国でも、高コレステロール血症患者を対象にEPA医薬品による心血管発症に対する1次予防および2次予防効果を調査する大規模疫学調査が、1996-2004年にかけて実施された(JELIS;Japan EPA Lipid Intervention Study)。その結果は、主要冠動脈イベントを有意に19%減少させた。1次予防では、高中性脂肪、低HDLコレステロール群で著効を示した。また、2次予防での有効性は高く、特に心筋梗塞既応歴と冠動脈介入施行例で著効を示した。さらに、脳卒中2次予防にも有意であった。


末木一夫

(薬学修士、日本ビタミン学会評議委員およびトピックス担当委員。国際栄養食品協会 専務理事および科学委員会委員長、元健康日本21推進フォーラム事務局長、元お茶の水女子大・明治大非常勤講師)