〜薬剤師 青木 敏朗〜

近年百日咳の患者が増加傾向にあり、成人患者を中心に集団感染を発生しております。

通常、百日咳とは百日咳菌による急性期の呼吸器感染症で小児感染症というイメージがありますが、最近の集団感染の報告をみますと大学や職場で20~40歳の成人患者に発生しております。

なぜ成人患者に急増するようになったのでしょう。

感染症とワクチンについて

まず、その前に感染症と免疫(ワクチン)の基礎について、簡単に勉強しましょう。

人が病原体(細菌やウィルスなど)に感染すると、生体のいくつかの防御機能が働いて、病原体の侵入を防いだり、侵入した病原体の増殖を抑制します。

また、いちど感染が起きると、次に同じ病原体が侵入してきても早く体から防御するように働きます、これを免疫が出来る(免疫を獲得する)といいます。

これには抗原(病原体)に対して、特異的に働く抗体(免疫グロブリン)が出来るのですが、抗体の生産機序は脊椎動物以上の高等動物にしか見られない、高度な防御機能です。

つぎに、この防御機能を利用して人工的に免疫をつくる方法にワクチンがあります。

ワクチンは感染の予防に使用されますが、これは毒性をなくしたり、毒性を弱めた病原体を接種することでその病原体に対して免疫力がつきます。

また、ブースター効果というものもあります。

これは病原体のワクチン接種後(もしくは感染後)に基礎免疫が出来た後、再び同じ病原体に感染もしくは(ワクチンを接種することも同じ)で免疫力が、増幅することを言います。

百日咳菌とは

百日咳とは百日咳菌または一部はパラ百日咳菌という細菌による感染です。

感染力は強く感染経路は、鼻咽頭や気道からの分泌物による飛沫感染、および接触感染です。

発生時期は1年を通じて見られますが、春や夏~秋にかけて多発します。

百日咳菌およびパラ百日咳菌は細菌には、マクロライド系抗生物質が治療に使われます。

百日咳の症状とは

「典型的な臨床像は、顔を真っ赤にしてコンコンと激しく咳込み(スタッカート)、最後にヒューッと音を立てて大きく息を吸う発作(ウープ)となる。嘔吐も伴い、眼瞼の浮腫や顔面の点状出血がみられることがある。幼若乳児や、年長児、また成人では典型的な症状がみられず、診断が難しいことも少なくない。

乳児では重症になり、特に新生児がかかると無呼吸となり、致死的となることがある。肺炎、脳症を合併することがある。」

*厚生労働省 感染情報 百日咳より

潜伏期間(症状が、でるまでの期間)は通常7~10日間程度)で、その後かぜ症状から次第に咳の回数が増えていきます。

また成人の場合は激しい咳や咳き込みによる嘔吐などがでて長期の咳が続きますが、あまり重症化しません、軽症例も多いようです。

問題は、大人は行動範囲が広いため、重症化しやすい乳児(特に3種混合ワクチンが終了していない1歳未満児)に感染させてしまうことです。

なぜ百日咳が集団発生するのか?

通常、三種混合ワクチン(またはDPTワクチンといいます、百日咳・破傷風・ジフテリアのワクチン)を乳児期に接種するのですが、ワクチンの効果は6~10年で消失していきます。

また百日咳は終生免疫が出来るといわれていましたが、感染後、ワクチンと同じように免疫力は消失していくようです。

つまり予防接種の普及で全体的な患者数は減少しましたが、それによりブースター効果が起こらなくなり、百日咳に対して免疫力がない成人患者に感染が広がり(患者の家族に百日咳に免疫がない人がいた場合70~100%の確立で感染します)、感染初期はただの「かぜ」と症状が似ているため、見過ごされてしまうことも多く、集団感染が起こりやすくなった言う事になります。

咳がひどくなるような時は、できるだけ早めに医師の診察を受けましょう。

参考:百日咳について(横浜市衛生研究所) 感染情報 百日咳(厚生労働省)