〜薬剤師~金子 昌弘〜

腎臓から排泄される薬の注意について 編

症状を改善させるために使用した薬は、その後どうなるのか?体内に吸収された薬剤は血液中に含まれ体内を循環して、薬が作用する場所で症状を改善するために働きます。その後、大部分の薬剤は肝臓内で代謝されて、胆汁に排泄され糞便から体外に出ます。また胆汁排泄を受けない薬剤や代謝を受けない薬剤などは、腎臓から尿を介して体外に排泄されます。

医師は治療を行う場合、症状に応じて治療薬を決めます。初めて受診する場合には、患者に関する生理機能などの十分な情報がないことから、一般的な治療となる使用量で処方することが多くなります。

もしも腎臓の機能が著しく低下している状態で、尿中に排泄される薬剤を使用する際には、用量を調節しないといけない場合があります。

薬を安全に使用するために、腎機能の低下がある場合の注意について、まとめてみました。

腎機能の指標

Cr:クレアチニン(Cr)は血液中に存在する老廃物の一種で、本来は排尿時に排泄される物質です。腎機能が低下した場合は排出される量が低下するために、血液中に溜まってしまうため数値が高くなります。よく定期的な血液検査で腎機能を評価する項目に使用されます。Crは筋肉から作られるので、筋肉量に比例して数値は増減します。男性の方が女性に比べてやや高く、筋肉量が低下しやすい高齢者は数値が低めになることあります。

クレアチニン(Cr)の基準値
  • 男性:0.65~1.07mg/dl以下
  • 女性:0.46~0.79mg/dl以下

Ccr:クレアチニンクリアランスとは、血液中のCrと尿中のCrを測定して、腎機能を調べる検査を、血清Cr、年齢、体重、性別からCockcroft-Gaultの計算式を用いて推算して腎機能を評価したもの。ただし肥満などの場合には過大評価となる可能性があります。

Cockcroft-Gault式
  • 男性:推算Ccr(ml/min)=(140-年齢)×体重(kg) / (72×血清Cr)
  • 女性:推算Ccr(ml/min)=(140-年齢)×体重(kg) / (72×血清Cr)×0.85

eGFR:推算糸球体濾過量estimated Glomerular Filtration Rateは腎臓の機能を表す指標の一つで、GFR(糸球体濾過量)はフィルターとして働く糸球体が、1分あたりどのくらいの血液を濾過して、尿を作ることができるかを示したものです。血清Cr、性別、年齢から推算して個人ごとの糸球体濾過量を評価します。

  • eGFRの計算式:194×血清Cr-1.094×年齢-0.287 (女性の場合は×0.739)
  • eGFRの正常値は60ml/分/1.73㎡以上

薬の使用量を調整しないといけない薬剤がある

服用した薬剤の一部には、腎臓から尿中に排泄されて体の中から消失します。薬剤は治療に適した血液中の濃度(血中濃度)の範囲内ならば副作用が出にくい場合でも、血中濃度が過剰になった場合には副作用の出現が起きやすくなる可能性があります。

腎機能の低下を指摘された場合には、薬剤の血中濃度が過剰にならないように、薬剤の種類によっては使用する量の見直しが必要になります。医療機関で腎機能の低下などを指摘された場合には、他の医療機関などを受診した際に報告することが大切です。

腎障害を指摘されたときに注意する薬剤は、尿中未変化体排泄率が高い薬剤で、腎機能の低下により薬物が体内に蓄積されやすくなるため、使用量の確認が必要になります。

例えば尿中未変化体排泄率が高い薬剤として

  • レボフロキサシン(84%ただし正常な腎機能の場合)
  • セフカペンピボキシル(40%)
  • ファモチジン(21~49%)
  • ミロガバリンベシル酸塩(タリージェ)(63~72%)
  • プレガバリン(84~98%)
  • ダビガトラン(85%)
  • エドキサバン(50%)
  • ピルシカイニド(75~86%)
  • シベンゾリン(55~62%)

などが挙げられます。

これらの薬剤は腎機能を考慮した治療を行わないと重篤な副作用を起こすことがあります。添付文書で腎機能の低下に伴い使用量の設定がされている薬剤は、腎機能に応じた処方量かを確認します。

例えばファモチジン(先発医薬品ガスター)では

腎機能が正常の場合 1回20mg、1日2回
30< CCr <60の場合 1回1mg、1日2回または1回20mg、1日1回
CCr ≦ 30の場合 1回10mg、1日2回または1回20mg、1日1回

例えばレボフロキサシン(先発医薬品クラビット)では

腎機能が正常の場合 1回500mg、1日1回
20< CCr <50の場合 初日500mgを1回、2日目以降250mgを1日に1回
CCr ≦ 20の場合 初日500mgを1回、3日目以降250mgを2日に1回

以上のように腎機能に合わせた使用量の設定が定められています。

また具体的な記載がない場合もありますが、薬物の体内動態や腎機能別薬物投与量などのデータにより使用量を決めます。

以前からの使用していた薬でも服用量の変更を行うこともある

内科や健康診断などで腎機能の低下を指摘された場合には、腎機能低下の程度により、現在使用している薬剤の使用量の見直しが必要になることがあります。例えば腎臓の働きが健常の状態と比べて半分程度や1/3程度などと指摘された場合には、薬の内容により別の医療機関で使用している薬の使用量を、腎臓の機能に合わせた使用量に設定することが必要になることがあります。腎機能の低下により減量が必要な薬剤を通常量で使用すると、薬の血中濃度が高まり過剰な作用や、副作用の出現を引き起こす危険性があるので注意が必要です。

腎臓の機能に影響を与える可能性のある薬剤もある

解熱鎮痛剤としてよく使用される非ステロイド抗炎症薬は、プロスタグランジンという物質の産生を抑えるため、腎臓の血流量を低下させ、腎機能の悪化につながることがあります。また造影剤の中には腎臓への血流障害や尿細管障害により、腎機能に影響を与えることがあります。特に上記で記載したeGFRやCCrが低下している場合には、腎血流量の低下により影響を受けやすいので注意が必要です。

薬に関して積極的に薬剤師に確認を

腎機能の低下を指摘された場合には、お薬手帳に記載しておくことも大事です。他の医療機関を受診した際には、お薬手帳で現在使用している薬を伝えるとともに、腎機能など生理機能を伝えることで、より体に合った薬物療法を行うことにつながります。病院を受診する際や薬局に行く場合には、お薬手帳は必ず携帯するようにしましょう。

また最近、総合病院などの処方箋には血液検査による生理機能を記載したものがあります。生理機能を把握できれば、薬剤の適正な使用量を確認することもできます。安全に適切な薬物療法を行うために、お薬手帳に生理機能を記録して、かかりつけの薬局などで相談することもできます。薬の使用に関して何か不明な点がありましたら、薬剤師に相談するようにしましょう。