〜薬剤師~金子 昌弘〜

手指消毒薬編

例年寒くなると感染症の話題が多くなります。実際ノロウイルスやロタウイルスなどによる感染性胃腸炎は、11月から2月までが流行のピークになります。重ねて寒くなり空気が乾燥してくるとインフルエンザをはじめとする呼吸器感染症にも注意しなくてはなりません。何を注意するのか? ともにウイルス等により手指を介して感染することが多いので、手指の洗浄と消毒により感染経路を絶つことが重要です。今回は手指の洗浄と消毒方法、消毒薬の使用上の注意点について紹介します。

消毒薬の種類

消毒薬はその作用の強さにより高水準、中水準、低水準に分けられます。高水準は一定の条件下であらゆる微生物を抑えますが、器具等の消毒が目的であり、人体に対しては使用できません。中水準に分類されるものは、芽胞(*)という特別な構造を持った微生物以外に効果があり、種類により人体、器具、環境の消毒に使用されます。低水準のものは人体に対する影響が少ないため、皮膚消毒に広く使用されます。また器具、環境に対しても使用することができますが、芽胞を持った細菌やウイルス、結核菌などには効果が期待できないため、また耐性菌の問題もあるため注意する必要があります。

家庭などで使用するものでは、中水準ならば次亜塩素酸ナトリウム、消毒用エタノール、イソプロパノール、低水準ならば第四級アンモニウム塩(ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物)、クロルヘキシジングルコン酸塩、両性界面活性剤などがあります。

※芽胞:ある種の細菌が、生活環境の悪い時に自身の身を守るために形状を変えたもので、熱や消毒薬に対しても抵抗性のある細胞構造。芽胞を形成する細菌に、セレウス菌、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌、破傷風菌、炭疽菌、納豆菌などがあります。


手指の消毒薬と消毒方法

手指の消毒法は以下の3つの方法があります。古くはベースン法(容器に入れた消毒薬に手を浸す方法)もありましたが、現在は交差感染を起こす危険性もあるため行いません。

消毒法使用方法消毒薬
擦式法エタノールまたはエタノールにベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、クロルヘキシジングルコン酸塩などを配合したもので、手荒れを予防するため保湿剤を添加したもの。エタノールの揮発性により速乾性があり水なしで使用可。適量を手のひらにとり、手に乾燥するまでよく擦り込んで使用する方法。 エタノール
エタノール・ベンザルコニウム塩化物
エタノール・クロルヘキシジングルコン酸塩
エタノール・ポビドンヨード
など
清拭法ガーゼや綿球などにエタノールやベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、クロルヘキシジングルコン酸塩を浸み込ませたもので拭き取る方法。 エタノール
ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、クロルヘキシジングルコン酸塩など
スクラブ法消毒薬を配合した洗浄剤を使用し、十分に泡立てて一定時間洗った後に流水で洗い流す方法。 クロルヘキシジングルコン酸塩、ポビドンヨードなど

手指の洗浄方法

基本的には石鹸(薬用の液状石鹸の方が手全体に広がりやすいので使用しやすい)と流水による手洗いを行います。

①流水で手を洗浄します。

②石鹸、薬用石鹸または手洗い用の消毒薬を手のひらに取ります。

③十分に泡立てて、手のひらをよく洗います。

④手のひらで手の甲を包むように洗います。(左右行います)

⑤指の間をよく洗います。

⑥親指をもう片方の手で包み込むようにしてよく洗います。

⑦手のひらを使い、もう片方の指先と爪をよく洗います。(左右行います)

⑧手首までよく洗います。

⑨流水で十分に洗い流します。

⑩ペーパータオル等で拭きます。感染性胃腸炎やインフルエンザなどの呼吸器感染症の感染対策では、なるべくペーパータオルを使用し、ペーパータオルがない場合にはタオルは個々に分けた方がいいでしょう。


手指の消毒薬と使い方

目に見えない汚れに対して、また手洗いのできない場合に対しては、アルコールを含んだ乾燥性擦り込みタイプの消毒液を使用します。

①消毒薬を適量(大人の場合3ml程度:ポンプタイプは、ポンプを十分に押し切った1押し分)を手のひらに取ります。

②左右の手のひらを擦り合わせます。

③指先と指の背側を片方の手のひらで擦り込みます。(左右行います)

④手の甲を片方の手で擦り込みます。(左右行います)

⑤指を組んで指の間を擦り込みます。

⑥親指をもう片方の手で包み込み擦り込みます。(左右行います)

⑦手首まで擦り込みます。

⑧最後に乾くまで擦り込みます。

※消毒薬は血液や汚物などにより効果が低下します。汚れているときは洗浄後に使用することが重要です。


消毒薬を使用するときの注意点

消毒薬は使用する場所により選択することが大切です。手指消毒に使用するものは環境消毒にも使用できますが、次亜塩素酸ナトリウムのような皮膚への刺激が強いものは人体には使用できません。またアルコールが高濃度含まれるものを広範囲に使用した場合は、引火性があるため注意が必要です。

消毒薬に過敏性のある方がいます。例えば血液検査で採血時また注射をする前に行う、アルコール綿による消毒でかぶれた経験のある方は、別の消毒薬を使用します。また目の周りや傷のある場合も刺激の少ない消毒薬を選びます。眼の手術後に行う洗浄綿はベンザルコニウム塩化物、クロルヘキシジングルコン酸塩を浸み込ませた製品です。両消毒薬ともに広く使用される消毒薬ですが、クロルヘキシジングルコン酸塩は粘膜に対しては使用しません。

また、消毒薬の効果を左右するものに、「濃度」「時間」「温度」があります。普段家庭で注意する上では「濃度」と「時間」を確認してください。微生物を抑えるための必要な濃度があります。適正であれば効果が得られ、薄いと期待する効果が得られません。濃すぎると刺激作用があり、経済的にも無駄になってしまいます。

「時間」は、消毒薬の種類により効果が得られるまでには一定の時間が必要です。説明書で浸け置き何分と記載していますので守るようにしてください。消毒薬を使用したことと消毒したことは同じではありません。正しく使用して消毒することを心掛けてください。


薬の使用方法がわからないときは薬剤師に確認を

消毒薬は使用方法を理解して適切に使用することが大切です。有効に安全に使用していただくために、消毒薬の使用方法で何か不明な点がありましたら、まず薬剤師に確認して適切に使用するようにしましょう。