〜薬剤師~金子 昌弘〜

胃薬(消化性潰瘍治療薬)編

胃の内壁は粘膜に覆われています。粘膜は防御因子として、胃酸やペプシンなどの攻撃因子から内壁を守る働きをしています。不規則な生活やストレス、痛み止めなどの使用により、防御因子と攻撃因子のバランスが崩れると、胃の内壁に炎症や潰瘍ができてしまうことがあります。高齢化に伴い血栓予防のための低用量アスピリンの服用や、痛み止めを服用する機会が多くなる可能性があり注意していくことが大切です。胃薬は比較的安全な薬と思われる傾向がありますが、注意していくことも多い薬です。

「胃薬を何種類も飲んでいるが、必要なのかしら?」と伺うことがありますが、胃に対する薬の働き方は様々なものがあり、必要に応じて組み合わせて使用します。今回は胃薬の分類と特徴、注意点について紹介したいと思います。

攻撃因子抑制薬

胃酸の分泌には副交感神経の興奮や生体内物質である、ヒスタミン、ガストリン、アセチルコリンという化学物質が関与しています。その化学物質が胃の壁細胞にある受容体と結合して胃酸を分泌させます。そのためヒスタミンH2受容体拮抗薬(ヒスタミンが受容体と結合することを防いで胃酸分泌を抑制する:以下H2ブロッカー)や抗ガストリン薬、抗コリン薬が使用されます。胃の壁細胞にある胃液を分泌させる最終段階のプロトンポンプを阻害して、胃液の分泌を抑制する薬があります。(プロトンポンプ阻害薬:以下PPI)また制酸薬も即効性があるため急性期に使用されます。

防御因子増強薬

胃の内壁にある粘膜に関係する薬剤です。粘膜の血流を増加させ粘膜の修復を促し粘液の分泌を促す薬や、傷ついた胃粘膜を覆うことにより胃酸やペプシンから粘膜を保護する薬があります。プロスタグランジン製剤は胃の血流を高めて粘液の分泌を促し、使用量により胃酸分泌の抑制を行い、痛み止め(NSAIDs)の長期服用による胃潰瘍や十二指腸潰瘍に使用されます。交感神経の中枢に作用して胃血流を改善する抗ドパミン薬などがあります。

攻撃因子抑制薬の分類

攻撃因子抑制薬主な商品名(一般名)
H2ブロッカーガスター(ファモチジン)、ザンタック(ラニチジン塩酸塩)、アルタット(ロキサチジン酢酸エステル塩酸塩)、アシノン(ニザチジン)、プロテカジン(ラフチジン)、タガメット(シメチジン)
PPIオメプラール・オメプラゾン(オメプラゾール)、タケプロン(ランソプラゾール)、パリエット(ラベプラゾールナトリウム)、ネキシウム(エソメプラゾールマグネシウム水和物)、タケキャブ(ボノプラザンフマル酸塩)
抗コリン薬ブスコパン(ブチルスコポラミン臭化物)、コリオパン(ブトロピウム臭化物)、セスデン(チメピジウム臭化物水和物)など
制酸薬合成ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウムゲル、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウムなど

防御因子増強薬の分類

防御因子増強薬の分類主な商品名(一般名)
組織修復促進薬セルベックス(テプレノン)、ムコスタ(レバミピド)、ソロン(ソファルコン)、プロマック(ポラプレジンク)、ガスロンN(イルソグラジンマレイン酸塩)、マーズレンS(アズレンスルホン酸ナトリウム・L-グルタミン配合剤)
胃粘膜保護薬アルサルミン(スクラルファート)など
プロスタグランジン製剤サイトテック(ミソプロストール)
抗ドパミン薬ドグマチール(スルピリド)

他院受診時などの前に必ず報告してください

胃薬は胃の症状に伴い服用している場合以外に、痛み止めなどの薬を処方する際にも併せて使用されることが多いため、重複してしまう可能性もあります。分類が異なる組み合わせは治療上必要なことがありますが、同一成分の場合は服用量の超過により、副作用の出現を引き起こす可能性があります。服用中の薬は必ず報告して、飲み合わせを確認していくことが重要です。服用している薬を正しく伝えるために、お薬手帳を使用してください。

胃薬は比較的安全な薬ではなかったの?

消胃薬を服用したことのある方はとても多いと思います。また市販の薬(OTC)でもかなり多様な薬が販売されています。H2ブロッカーの多くは腎臓の機能に応じて使用量の設定が必要なものがあります。重複はもとより加齢に伴う腎機能の低下に応じて、適切な量を使用する必要がある薬剤です。アルミニウムやマグネシウムが含まれる薬では、ある分類の抗生物質の吸収を妨げてしまうことがあります。また特に腎機能が著しく低下した場合などでは、アルミニウムやマグネシウムが血液中に過度に高まる可能性もあります。胃薬も適切に正しく使用することが大切です。

薬の注意点など、不明な際は薬剤師に確認を

胃潰瘍治療においては、PPIやH2ブロッカーを中心に攻撃因子抑制薬を単独で使用、または防御因子増強薬と併用して治療を行います。PPIおよびH2ブロッカーを一日1回服用する場合は、就寝前のことがあります。これは夜間、就寝中の胃酸分泌が症状を引き起こす可能性が高いためです。しかし就寝前の服用は比較的飲み忘れてしまう可能性もあります。もし服用を忘れてしまうことがあるようでしたら、夜間一定の時間を決めて服用して飲み忘れを防ぐ方法もあります。薬剤師に相談していくようにしてください。

安全に薬を使用していただくために、薬の使用法で不明な点がありましたら、まず薬剤師に確認して適切に使用するようにしましょう。