〜薬剤師~金子 昌弘〜

抗生物質・抗菌薬編

A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)感染症や百日咳、中等症または重症の急性鼻副鼻腔炎など細菌が原因で起こる感染症に対して抗生物質・抗菌薬が使われます。…今回は病名や病状が記載されていることに気付かれたでしょうか?

“風邪をひいたようなので抗生物質をください!”…抗生物質を以前風邪などで服用したことがある方は多いと思います。しかし今、抗生物質・抗菌薬は慎重に使用するようにと使用基準を厳しく改めています。

風邪の原因の多くはウイルス感染であり、抗生物質・抗菌薬は効きません。抗生物質・抗菌薬は細菌感染を治療する薬です。※1 今回は抗生物質・抗菌薬と処方された薬の正しい使い方について紹介します。

抗生物質・抗菌薬の選択と働き

細菌検査を行い起炎菌が断定されれば、その細菌に対して最も有効な薬剤を選べますが、細菌の種類によって時間がかかる場合があります。急を要する場合では、

①症状を起こしている感染症に対して、起炎菌はどのようなものが多いか

②その細菌に対して耐性頻度の少ない薬剤は何か

③感染を起こしている部位に移行しやすい薬剤は何か

④使用する患者さんの生理機能などを考慮して副作用の少ない薬剤かどうか、などを医師が症状から判断して薬剤を選択して使用します。

また抗生物質の効き方には細菌を直接殺す殺菌タイプと細菌の増殖を抑える静菌タイプに分かれます。細菌の細胞壁を合成する酵素を抑えて細胞壁の合成を抑える薬剤や、細菌のリボソーム(mRNAから蛋白質を合成する反応を行う細胞内小器官)に結合して蛋白合成を抑える薬剤、細菌のDNA複製を阻害する薬剤などに分類されます。

主な抗生物質・抗菌薬の分類

前立腺肥大症薬 抗菌の作用 主な商品名(一般名)
交感神経選択的α1阻害薬 細胞壁合成阻害薬 アモキシシリン、アンピシリン
セフェム系 細胞壁合成阻害薬 セフカペンピボキシル、セフジトレンピボキシル
カルバペネム系 細胞壁合成阻害薬 テビペネムピボキシル
ホスホマイシン 細胞壁合成阻害薬 ホスホマイシン
アミノグリコシド系 蛋白合成阻害薬 ゲンタマイシン
マクロライド系 蛋白合成阻害薬 クラリスロマイシン、アジスロマイシン
テトラサイクリン系 蛋白合成阻害薬 ミノサイクリン、ドキシサイクリン
リンコマイシン系 蛋白合成阻害薬 クリンダマイシン
ニューキノロン系 DNARNA合成阻害薬 レボフロキサシン、メシル酸ガレノキサシン
ポリペプチド系 細胞膜障害薬 コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム

服用方法と注意点

抗生物質・抗菌薬の服用回数は種類により異なります。薬剤を服用すると吸収されて血液中に含まれ、その後薬剤濃度の最高点(Cmax)になり、代謝・排泄されていきます。

細菌に対して薬物が効くためには血液中の適切な濃度があり、細菌を抑えるための最小発育阻止濃度をMICと言います。薬剤の種類によりCmaxにより効果が高まるものと、MICを長く保つことで効果が高まる薬剤があります。ニューキノロン系はCmaxを高くすることで効果が強くなるため1日に使用する服用量を1回で服用、ペニシリン系やセフェム系はMICを超えた状態を保つことで効果が高まるため1日服用量を複数に分割して服用することが大切です。

抗生物質・抗菌薬を使用するときの注意点

「○○大学病院で抗生剤の効かない△△耐性菌が検出されました」と言うニュースなどを聞いたことがあると思います。今医療界ではAMR(病原体が変化して抗生物質・抗菌薬が効かなくなること:Antimicrobial Resistance)の対策が行われています。もしも何も対策を取らないで現在のペースで耐性菌が増加した場合、2050年には1000万人(3秒に1人 ※2)の死亡が想定され、がんによる死亡者数を上回ることが指摘されています。

抗生物質・抗菌薬は、医師が判断して治療に必要な薬剤を、治療に必要な期間分を処方します。服用量と服用期間を守って最後まで服用するようにしてください。

病状がよくなってきたから抗生物質・抗菌薬の服用を自己判断でやめたり、飲み忘れをしないようにしてください。また残っていた薬を自己判断で使用することも避けなければなりません。アレルギー反応などの副作用を起こした場合やその他の副作用により服用を中止にすることもありますが、医師に報告して適切に指示を受けるようにしてください。

腎機能に応じて服用量が変わることもあります

ニューキノロン系の薬剤では腎機能に応じて服用する量を2分の1程度にするもがあり、またセフェム系の一部やその他の薬も減量する必要があるものがあります。もしも腎機能の低下を指摘されている場合は、医療機関受診時には必ず伝えるようにしてください。

相互作用にも注意が必要です。他剤を服用中の場合は薬剤師に確認を

ニューキノロン系はアルミニウムやマグネシウムを含んだ制酸剤などや鉄剤と同時に服用すると、吸収が低下することがあります。またセフェム系のセフジニルは、鉄剤と同時服用で吸収が約10分の1まで低下します。服用時間をずらして服用することで対処します。クラリスロマイシンでは一部の薬剤とは使用できないものがあるので必ず併用薬は確認することが大事です。

抗生物質・抗菌薬は医師の指示を守り適切に使用することが大切です。有効な服用法や相互作用に注意して、安全に使用していただくために何か不明な点がありましたら、薬剤師に確認して適切に使用するようにしましょう。

※1 厚生労働省 抗生物質・抗菌薬への薬剤耐性対策資材より

※2 英国薬剤耐性に関するレビュー委員会第一次報告(2014年12月)